エピソード6:どん底時代を経て

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宿なしの恐怖にふるえる毎日

ロンドンの芸大に通っている最中、とんでもないことが起きました。それは、eviction。
空き家に無断で住んでいる私たちスクウォッターズの「一斉追い出し」を役場が始めたのです。

通常は裁判所から通知が来て、退去日が決まるまで3ヶ月~半年ありますから、次の住み家を余裕で探せます。が、この時は一斉追い出しだったので、空き家が見つかったと思ったら、それはすでに退去命令が下されている家。

約3ヶ月間、毎日のように次に住む家を探しながら、2週間おきに引っ越すということを繰り返しました。私以外にも数人宿なしになる仲間がいたので、毎日家探しに必死でした。

路上生活が目の前という切羽詰まった状況になると人の本性が現れます。
家探しのストレスもありましたが、人間関係で相当心がすり減りました。

家探しの最中に、こんな状態で人間が住めるのか?という家もいくつか見ました。電気なしで暮らしている人たち、ゴミ溜めの家、窓ガラスが割れるケンカ、夜中に狂ったように叫ぶ人、アル中で頭がおかしくなって路上生活を始める人、刺される人など。

人としての尊厳を失ったどん底の人間と生活に触れる日々でした。

それとは別な話ですが、イギリスにいる間に3回、自我崩壊を経験したことがあります。突然、自分の信念の基盤が崩れるという恐ろしい体験。1回ごとにきつくなったので、4回目が起きたら生きていられないだろうと思いました。ありがたいことにまだ4回目は起きてません。

当分、人に関わりたくない

この過酷な日々を過ごして、メンタルをやられました。医者や専門家に診てもらうことはしてませんが、気持ちが沈み、できるだけ人に会わず、静かに過ごしました。

一度、頭の中が突然、急速回転したことあります。ぐるぐると何かが回りだして加速していきます。私の意思とは関係なく起きていて、「高速回転して切れたらやばい!」とマジ危機感を感じました。自我の一線が切れる前ぶれだったのでしょう。慌てて一緒に住んでたルームメイトを呼びました。ありがたいことにそのうち静まりましたが。あれがプチンと切れたら廃人になるんだろうな、考えごとに気をつけないとなと思いました。

芸大の1年の基礎コースを終えた後は、ロンドンから約1時間のウィンチェスターという町の芸大に進むことになりました。

そこはアーサー王が剣を抜いた伝説の地で、老後を過ごすのにいいような静かな小さな町だったので、私のメンタルを癒すのにちょうどよかったです。

1年目は学生寮、その後はイギリス人の家で、同大学のイギリス人の女の子と2階をシェアをしました。

この芸大にいる間、最低限しか人に関わらず、静かに作品制作に没頭することで癒され、3年後にやっと普通な精神状態に戻れました。

この大学ではスペインとの交換留学があり、またスペイン人と仲良くなり、バルセロナに3ヶ月間の交換留学に行きました。明るいスペイン人と一緒にいるのも癒しになりましたね。

ついに帰国!そして京都へ

芸大を卒業するにあたって、最初はスペインに住もうかと思いましたが、結局、日本に帰ることにしました。親との関係も8年も経てば、向き合える気がしました。

日本に帰って実家の自営業&家事手伝いを1年半したのち、京都芸大の大学院試験に受かり、京都に引っ越し、大学院に通うことになりました。芸大は毎日楽しかったです。

私は24歳でロンドンの芸大に通いだしたので、京都の芸大でも他の生徒より一回り上でした。
でもそんなことは気にならず、いい子たちばかりで仲良くできました。
この2年間も制作に没頭。制作に時間を費やせるのは本当に嬉しいし、ありがたいです。

とても幸せな2年間でした。

エピソード7につづく

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